シャンパーニュ随一のシャルドネを育むコート・デ・ブランのグランクリュの村々は、エペルネのすぐ東にあるシュイイから始まり、その約10km南にあるル・メニル・シュール・オジェで終わる。この地区の両端を占めるこれらふたつのグランクリュは、その性質においても対照的だ。繊細かつ鋭角的な酸とミネラルを備え、最も長熟で最もエレガントなワインを生むル・メニル・シュール・オジェに対し、シュイイのワインは酸・ミネラルともに控えめで、滑らかに広がるソフトな果実と品の良さが特徴である。コート・デ・ブランの中では珍しく、シュイイはミネラルよりもボディに勝ると評されるが、この村で最上といわれるサランの丘に広がる畑はほぼモエ・エ・シャンドンが独占し、そのブドウをドン・ペリニヨンに使用していることに、そのポテンシャルが示されている。
2005年にパリで行われた大規模な試飲会で、シャンパーニュ評論家のリチャード・ジューリンに大きな衝撃を与えたレコルタン・マニピュランが、このシュイイにいる。これまで8,500種以上のシャンパーニュを試飲してきたジューリンをして、「強豪を差し置いて、私の心を打った正体不明の生産者」といわしめ、純粋に味わいとクオリティだけで3ツ星評価を獲得したミステリアスな造り手、それがジャン・イヴ・ルグロンである。
ジャン・イヴ・ルグロンのシャンパーニュからは、畑の良さとブドウのクオリティの高さがまっすぐに伝わってくる。特に、澱と長く接触させるシャンパーニュ独特の熟成方法が生む複雑さと旨みが傑出している。正しく、堅実な職人が手掛ける上質なシャンパーニュだ。他のアペラシオンではありえない程高い収量から造られたワインの薄さをドサージュの多さでごまかす商業的スタイルとは真逆の、優れたワインとしてのシャンパーニュが本来あるべき姿。しかも、その造りの手間暇を考えると、価格は極めて控えめだ。彼のワインは、大手メゾンのブランド戦略が生んだアクセサリーやステイタスを表す記号としてのシャンパーニュの対極にある。
現在、シャンパーニュ市場は巨大メゾンが支配的だが、シャンパーニュの外では全く知られておらず、現地へ行かなければ発見しえない素晴らしい小規模なレコルタン・マニピュランは少なからず存在する。ジャン・イヴ・ルグロンは間違いなくその中の一人だ。彼のシャンパーニュを手にする幸運にたどり着けるのは、注意深く現地の動向を追い、実際に訪れた者のみである。
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とにかく美味しい.